特別対談

70歳を迎えた歌手の小林幸子さんにとって、
肺炎につながる感染症の予防は
大切な問題です。

高齢者は、肺炎にかかりやすく、
また、重症化したり、
命にも影響をおよぼすことがあります。
肺炎の症状が治っても、
生活に影響が残ることもあるため、
小林さんをはじめ、
高齢者にとって心配な問題の一つです。

呼吸器の専門医である迎先生と小林さんに
肺炎を予防することの大切さについて
対談していただきました。

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私は歌手なので、やはり歌をしっかり歌うためにも呼吸の働きは守りたいと考えています。先生、高齢になると肺炎を起こしやすくなるって本当ですか?

はい、普通の町の中で健康な人がかかる肺炎を「市中肺炎」というのですが、それが年齢によってどのくらい頻度が違うかというと、80歳以上の方では18〜64歳の11.8倍、65〜79歳の3.2倍も発生頻度が高いという調査結果があります。

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11倍って凄いですね。

そうなんです。こうやって、数字でみると実感できますよね。

年齢以外にも肺炎にかかりやすい理由ってありますか?

ここに示すように、糖尿病やうっ血性心不全、COPD、肝疾患、喘息などの病気を持っていたり、喫煙の習慣がある方は、気をつけた方がいいと思います。

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私、喘息を持っているんです。

小林さんは、「65歳以上」と「喘息」という二つの肺炎にかかりやすい要因を持っているので、ますます、肺炎予防が大切になりますね。

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もし、肺炎を起こしたとしても、きちんと治療すれば、その後の生活には影響はないですか?

高齢者は肺炎を起こすと入院することもあって、そうすると、体力が落ちて、今まで普通にできていた「着替える」とかの動作でも息切れしたりするようになります。そして、動くと苦しいから動かなくなって、心身の機能が低下していき、ひどくなると寝たきりになったり、物を飲み込む力が弱まっていくこともあります。
そうすると、細菌やウイルスなどの病原体が肺に行きやすくなってしまい、また肺炎にかかりやすくなるという悪循環になってしまうんです。

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肺炎って、咳が出たり、呼吸が苦しくなるということは知っていましたが、こんなふうに、今の生活ができなくなる可能性があるなんて知りませんでした。

肺炎を起こして、症状が治って、退院はできたけど、「今までご自身ができていたことができなくなる・・・」、ここが肺炎の大きな問題だと思います。

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「肺炎って、インフルエンザとか、風邪とかが悪化して起こるイメージですが、合っていますか?」

インフルエンザになって重症化して肺炎が起こることもあります。ただ、先ほどご説明した普通の町の中で健康な人がかかる肺炎の原因として最も多いのは、「肺炎球菌」という細菌です。この他にも、グラフに示したようにインフルエンザ菌や肺炎マイコプラズマなどもあります。

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「肺炎球菌」?、はじめて聞きました。どこにでもいる菌ですか?

はい、肺炎球菌は、小さなお子さんの中には鼻の奥の粘膜に常在していることもある菌です。そして、咳やくしゃみによって周囲に飛び散り、それを吸い込んだ人へと広がっていきます。

肺炎球菌を吸い込むと体の中でどんなことが起こるんですか?

肺炎球菌は、このイラストみたいに莢膜(きょうまく)という厚い膜が菌の周りを覆った細菌です。

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おまんじゅうみたいですね。

絵に描くとおまんじゅうみたいに可愛いですが、実は、この分厚い莢膜(きょうまく)が重症化を起こす原因の一つになります。
私たちの体には感染から守るための免疫機能というものがあり、その代表的なものがマクロファージといって体に入ってきた悪い菌を食べて、菌をやっつける働きをします。しかし、肺炎球菌はこの分厚い膜が菌の周りを覆っているので、マクロファージが肺炎球菌を食べて菌をやっつけることができません。そして、肺炎球菌が排除されずに体の中で増えていって、抵抗力(免疫力)が低下している人などは肺炎球菌感染症を起こしてしまうことがあります。
また、肺炎球菌の怖いところは、この図のように肺だけでなく、全身のいろいろなところに侵入して感染症を起こすことです。血液に入ると敗血症とか、髄膜炎という病気を起こすこともあります。

肺炎球菌は血液にも入っていくことがあるんですか。

肺炎球菌が血液にまで入っていくと、高齢者の場合、死亡したり、後遺症を残したりすることもあります1)

  • 1)厚生労働科学研究費補助金 新型インフルエンザ等新興・再興感染症研究事業「重症型のレンサ球菌・肺炎球菌感染症に対するサーベイランスの構築と病因解析,その診断・治療に関する研究」
    http://strep.umin.jp/pneumococcus/case_study.html 2023/11/7参照
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肺炎球菌による感染症を予防するためにはどうしたらいいですか?

手洗い、うがいをして肺炎球菌を体の中に入れないことも大切ですし、口腔ケアをして口の中を清潔にしておくことや肺炎球菌ワクチンを接種する方法があります。

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口腔ケアとは具体的にどんなものがありますか?歯磨きのことですか?

歯磨きも一つですが、舌の上をブラシでこする方法もあります。

私、意識していなかったですが、歯磨きも舌磨きもやっています。

いいことですね。肺炎を起こす経路の一つとして、高齢者では寝ている間に誤って自分の唾液を飲み込んで、それが肺に入って肺炎を起こすことがあります。
高齢になると、食物や唾液などの物を飲み込む機能が低下して、本来なら食道から胃へと送られるものが誤って気道の一部である気管に入ってしまうことがあります。口の中にはものすごい数の菌がいるため、その菌が唾液と一緒に肺に入って肺炎を起こしてしまいます。
そのため、寝る前に口腔ケアをしておけば唾液の中の菌を減らせるので、寝ている間に唾液を飲み込んでしまっても、肺炎にまで至らずにすみます。

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どんなワクチンを接種したらいいですか?

ここに示したワクチンは、高齢者が接種することを推奨されているワクチンです。この中でも、インフルエンザワクチン、コロナワクチン、RSウイルスワクチン、肺炎球菌ワクチンは、病気の原因となる細菌やウイルスが感染して、肺炎など呼吸器の病気を起こしてしまうことを予防する目的のワクチンです。

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インフルエンザワクチンやコロナワクチンは知っていましたが、肺炎球菌ワクチンというワクチンもあるんですね。

肺炎球菌ワクチンも、肺炎予防のために、是非、高齢者に接種して欲しいワクチンなのですが、意外と知らない高齢者が多いです。

肺炎球菌ワクチンを接種したい時はどうしたらいいですか?

かかりつけの医師に相談してください。

毎年、冬になる前には、かかりつけの先生が「インフルエンザワクチン、そろそろ打ちましょうね」って声をかけてくれるのですが、肺炎球菌ワクチンについては、聞かれたことがなかったです。医師から言われないと、患者さんはなかなか分からないですよね。

肺炎球菌ワクチンはインフルエンザワクチンのように毎年接種するワクチンではなく、65歳の時に接種費用の一部が国から補助される定期接種というものがあります。
定期接種の対象となるのは以下に該当する方で、1回の接種を行います。
・65歳の方
・60~64歳で対象となる方

※心臓、腎臓または呼吸器の機能に障害があり、身の回りの生活が極度に制限される方、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)による免疫の機能に障害があり、日常生活がほとんど不可能な方
※過去に23価肺炎球菌ワクチンの接種を受けたことがある方は定期接種の対象となりません。

私は70歳なので定期接種に当てはまらないのですが肺炎球菌ワクチンを接種できますか?

はい、ご自身で費用を負担する任意接種という方法で、肺炎球菌ワクチンを接種できますよ。

今度、病院で先生に相談してみます。

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日本人の平均寿命は男女ともに80歳を超えているのですが、健康寿命は男女とも10年も減ります1)。健康寿命は、健康で生活できる人の寿命なので、それ以降は、寝たきりになったり、介護が必要になる期間が10年ぐらいあるということです。

私は70歳で健康寿命に近づいてきましたが、これからも元気に、歌い続けたいです。

やりたいことを続けて、いきいきと元気に生きていきたいと思うことはとても大切です。肺炎にかかってしまうと、なかなか以前のようには体の色々な機能が戻らないので、是非、しっかりと肺炎予防に取り組んで欲しいです。

summary

私、胸に緑のバッジをつけていますが、これは、今年から始まった「呼吸器感染症週間」のシンボルマークです。

呼吸器感染症週間の間は、どんな活動をされるのですか?

厚生労働省と私たち医師が一緒になって、一般の方に「呼吸器感染症」という病気を知ってもらうための活動をしています。今日、小林さんと対談させていただいて、小林さんのように長く芸能界で活躍されて、色々なメディアで情報が得られる環境にいる方でも、肺炎球菌などの高齢者にとって予防が必要な病気の情報が届いていないことが分かり、ますます呼吸器感染症週間を通じて活動することの意義は大きいと感じました。

本当ですね。高齢者にとってとても必要な情報なのに、おそらく、多くの高齢者は知らないと思いますので、もっと広まって欲しいです。
私も、しっかりと肺炎予防の大切さを伝えていきたいと思います。

  • 1)厚生労働省 e-ヘルスネット https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/hale/h-01-002.html
    2024年10月6日参照
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2024年12月作成 PRV45O007A

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